ちょうど2回目となるニューヨークへの旅のまえに、ブルックリンの街中にウイスキーの蒸留所があると聞いた。ニューヨークでいちばん古い蒸留所という。
ニューヨークと蒸留所がうまく結びつかなかった。しかしブルックリンへ行けば手に入るという。ニューヨークの酒はどのようなウイスキーなのだろう。興味はつきず、なにがなんでも手にいれて、呑兵衛仲間への土産にしようと考えた。
ニューヨークにいる友人にその蒸留所と販売している酒屋を調べてもらった。製造しているのはキングス・カウンティ蒸留所。2009年にニューヨーク州の酒類製造法の規制が緩和されてライセンスが取得しやすくなった。その翌年、2人の若者がブルックリンで蒸留所を造る夢を叶えた。空間が限られているのでウイスキーを寝かせる樽をちいさくした。コンパクトになった分、熟成ははやくなったという。
常識や採算に縛られない行動は若さの特権だ。しかし原料の80パーセントをニューヨーク州産でまかない、伝統的な蒸留法で造るなど、守るべきところは守っている。だからニューヨークのウイスキーはものめずらしさだけでなく、中味もすばらしく、はやくも多くのファンを獲得していた。
キングス・カウンティ蒸留所の出店のような酒屋へ行った。壁面にずらりとウイスキーが並んでいる。長身のハンサムな店員にブルックリンのウイスキーを欲しいというと、ポケットボトルのような小瓶を2本並べた。琥珀色がバーボンウイスキー、透明なのがほとんど蒸溜をしていないコーンウイスキーだった。そして
「ニューヨークでいちばん古い蒸留所のウイスキーなんだ。だけど設立からまだ3年目なんだけどね」
といって笑った。
ニューヨークのウイスキー。それは物珍しさを超え、いまや世界中のバーボン好きに愛される1本になっている。