空港のすぐそばにあると知ったのは
最近のことだった。
降り立つ機会があれば、
延泊してでも訪れようと
機会をうかがっていた。
高村山荘。
いまは記念館として保存されている。
彫刻家で、詩人の高村光太郎は
晩年、花巻の山奥の山口村に居を構えた。
山荘といえば聞こえはいいが、
約7坪半、杉藁葺き屋根、粗壁、障子一重、
人ひとり寝るのが精一杯の掘っ立て小屋だった。
冬の夜などは、朝起きると、
隙間からの雪が布団に積もっていたという。
水を汲み、火をおこし、野菜を育て、
他の時間は詩作にあてる生活を愛しんだ。
寂しくなると、裏の山を登り、
見晴らしのいい場所から
「ちえこ〜」と亡き妻の名前を
何度も叫んだという。
厠には自分で「光」という字を彫って
明かり取りにしていた。
その「光」を見たかった。
それは憧れだった。
念願が叶ったいま、
厠に彫られた光を見て
それで十分だと思った。
緑が燃えるように歌い、
水が入った田圃は風に煌めき、
底から蛙の鳴き声が湧き響く。
みちのくの五月は、
田植えの真っ只中だった。