ヨーロッパでもアメリカでも、エスタブリッシュメント的ポジションにいるビジネスマンはほんとうによく働いている。だからリタイアという発想が生まれるのだろう。
20世紀の日本のビジネスマンもよく働いていた。その昔、新幹線のグリーン車へ乗ってまず感心したことは、乗客のほとんどがスーツ姿で、ずっと仕事をしていることだった。書類に目を通す人、ペンを走らせる人。しかしそれが指定席へ移ると、同じビジネスマンでも居眠りしている人や雑誌を読んでいる人が大半だった。
アメリカのニューヨークには忙しいエスタブリッシュメントに応える店がたくさんあった。いまでも残っている店のひとつにメイド・イン・アメリカのシューズブランド「オールデン」がある。その履き心地はいまさら紹介するまでもない。〝走れる革靴〟と讃えられる履き心地は忙しいニューヨーカーにピッタリだ。
ミッドタウンのマディソン・アベニューにある「オールデン」の開店は朝の8時。周辺に勤めるビジネスマンが出勤前に買い物ができるためだという。かつてその周辺には「オールディン」だけでなく多数のテーラーや靴屋が朝から店を開けていたという。ここ一番の商談やプレゼンテーションのときに靴や服を新調するビジネスマンの姿が浮かんでくる。
ホテルから歩いていける距離にあったので8時過ぎに「オールデン」へ行ってみた。品数も豊富で、片隅にはバーゲンコーナーもある。もちろんどの靴も日本で買うより安い。軽い驚きは、すでに数人のビジネスマンがいたことだ。
もちろん購入した。しかしさすはアメリカ。サイズもアメリカンで私の足に合う靴がない。
諦めるのはしゃくなので、コードバンのプレーントゥの、いちばんちいさなサイズを選んだ。紐をきゅっと締めれば履けなくはない。
そしていまでもこの1足はここぞという打ち合わせやプレゼンテーションのときに履いている。